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たいらのまさかど
平の将門
吉川 英治
「小説公園」六興出版社、1950(昭和25)年新春号~1952(昭和27)年2月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 232,193 字 · 463 页
――こんな、現状の中に、将門は、何も知らずに、帰っていたのだ。十三年も、都にいて、ただ、親ののこした広大な土だけはあると信じて帰って来たのである。ところが、残っていたのは、何もない豊田の古館と、去勢されたような弟たちだけだった。世の推移と頼みがたい人心を、都では、いやというほど見て来たが、彼はまだ、生れ故郷では――悠々として変化のない大自然にごま化されて――眼に見るほどには、痛感できなかった。どこかにまだ、郷土を信じたい気もちがあった。この美しい水や田野や山に朝夕染められて住む人間には、都人のような軽薄や悪さはないという信念が抜けなかった。――いくら狡い叔父たちでも、これから行って、誠意を訴えれば、案外、はなしはわかるにちがいない。なお、欲は張っても、たとえ幾分でも、返してくれないという話はない。――どうしても、そう思いたかった。
しかし、どうしても、返さなかったら、どうするか。
将門は、もちろん、この場合も、途々、ずいぶん考えた。が、すぐ命をかけても、というような結末の怒りが血に沸ってしまうだけで、事前に、その場合の考慮をもって臨むことは不可能だった。