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たいらのまさかど
平の将門
吉川 英治
「小説公園」六興出版社、1950(昭和25)年新春号~1952(昭和27)年2月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 232,193 字 · 463 页
麓からすこし山へ食い入った高所に構え、屈折した石段の山に、さながら大寺院のような門が、自然の老杉や松を美しく冠っていた。
馬は、麓で降り、梨丸も、下に待たせておいて、ただ一人で、門をはいった。大玄関を見まわしていると、横の家人小屋から、武士が出て来た。初めは、つまみ出しそうな権まくだったが、彼が、毅然として、小次郎将門だと告げると、さすがに気押された気味で、ことばも改めだした。
取次ぎに去ったまま、家人は、なかなか出て来ない。夕ぐれ近い陽が、針葉樹を虹のように透いて、もう裏の山ふかい所では、蜩が啼いていた。どこかに、ふと、水のせせらぎも聞え、将門は、喉の渇きを覚え出した。
「遅いなあ。何をしているのだろう?」
取次にかくれた家人は、主が、いるともいわず、いないともいわなかった。ここにも、昨日の毛野川原の事が、聞えているものとみえる。とすると、ある覚悟はしていなければならない。叔父の館へ来て、危険を猜疑する気もちに努めるのは、将門の性格には、骨の折れることだった。けれど野霜の武具師も、それとなく、注意を与えてくれていた。――何せい、あなたは、まだお若いでなあ、といかにも心もとないように、しげしげと自分を見てつぶやいたことだった。