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たいらのまさかど

平の将門

吉川 英治

「小説公園」六興出版社、1950(昭和25)年新春号~1952(昭和27)年2月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 232,193 字 · 463 页

青空文庫

「よし。何が、突然起っても、おれは決して、驚きはしないぞ。それ程なら、毛野川を渡って来はしない」

将門は、自分へむかって、そういっておく必要を覚えた。大股に、広前を斜めに歩き出していた。さらに、山庭へはいりこんだ。さっきから、喉の渇きが求めている水を――どこかに、岩清水の落ちている音を――探しに行ったものらしい。

きれいに、手のとどいている灌木や、岩苔や、松の巨木は、目につくが、水は、どこを通っているのか、見つからなかった。そのかわりに、彼は、思いがけないものを、ふと、彼方の木蔭に見出した。

先でも、いぶかるように、将門を見ていた。

「あ。……?」

将門は、理由なく、顔をあからめた。いま以て、彼は、美しい女性と感じると、理由の生じない前に、顔はもちろんだが、体じゅうに反射が起った。

彼が、うっかり立ち入ったところは、女の住居のある壺であったかも知れない。都の忠平左大臣の小一条の壺が思い出された。大臣が、そこに秘して可愛がっていた紫陽花の君によく似ていて、それよりはやや小づくりで年も若い女性が、じっと、なおまだ木蔭から、彼の姿を、見すましているのだった。