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たいらのまさかど

平の将門

吉川 英治

「小説公園」六興出版社、1950(昭和25)年新春号~1952(昭和27)年2月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 232,193 字 · 463 页

青空文庫

富士まだ若し

富士まだ若し

牧で、幾日かを遊び、横山へ行ったほど日数をわざとおいて、彼は、なに食わぬ顔で、豊田の館の本屋へ帰った。

「……汝れは、たしかに、横山へ行ったのか」

大叔父も、小い叔父も、こぞって、変な顔をした。御苦労とも、いわなかった。

常陸笠間の北方の山岳で、つねに、平野の豪族たちに反抗している蝦夷ばかりの柵の者が、乱を起したという早馬が来、国香、良正たちは、それから九十日ほど、見えなかった。

翌年の春にも、秋にも、同じ乱が多かった。

叔父どもが、多忙だと、小次郎は、羽を伸ばした。しきりに、蝦夷萩と会う機会にも、めぐまれた。家人たちは、彼女の血を賤しむが、彼には、なんの区別もない。当然、その真実に彼女の熟れた肉体も盲目になった。蝦夷萩は、奴婢曲輪から、危険な空壕を這いわたり、高い柵を、跳躍して、真夜中になると忍んで来た。生命を賭していることは、小次郎の鈍な神経にもわかった。彼女の肌に烙かれては、思い知らさずにおられない。

だが、その年の冬の一夜――。いや、夜は明けて、霜にまッ白な凍地の朝だ。

空壕の底に落ちて、烏の死骸みたいに死んでいた少女がある。