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たいらのまさかど

平の将門

吉川 英治

「小説公園」六興出版社、1950(昭和25)年新春号~1952(昭和27)年2月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 232,193 字 · 463 页

青空文庫

もとより、ここの家族に、否やはない。挙げて、将門主従に、同情をよせ、その夜から薬餌、手当に、夜も明かしたほどである。

「なに。たいした事はない。だいぶ、心もおちつきましたし」

朝になると、将門は、家族たちに、感謝して、その日のうちにも、豊田郷へ帰るような事をいい出した。伏見掾は、以てのほかな顔をした。

「お気がねなさるのでございましょう。ところが、私共には、よろこびなのです。先夜も、お物語りいたした通り、小殿のお父上良持様には、どんなに、お世話になったことやら知れません。幾年の後、はからず、一夜のおん宿を申しあげるのも、尽きぬ御縁です。良持様のわすれがたみでお在すあなたに、こう、傅き申しあげることが、人の世のよろこびでなくてどうしましょう」

翁のことばは、そのまま、ここの家族の、真心な世話ぶりに出ていた。将門は、気がゆるんだせいか、その日から、大熱を発した。次の日も、夢うつつな、容態であった。

すこし、意識づくと、彼は、無念そうに、泣いてばかりいた。泣くことに、そう、人前をはばからなかったのは、この時代――平安朝期の日本人のすべてであったが、幼少から特に、癇が強くて、泣き虫な将門であった。