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たいらのまさかど

平の将門

吉川 英治

「小説公園」六興出版社、1950(昭和25)年新春号~1952(昭和27)年2月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 232,193 字 · 463 页

青空文庫

「……?」

将門は、不快と、怪訝りに、思わず左の手で、太刀のさやを握った。燭は、二ヵ所にもまたたいているが、生憎と、あいての寝顔が見えないため、ずかずかと、男のそばまで、歩いて行った。そして、その図々しい寝顔を、真上から覗いた。

「……おや?」

と思ったとき、反射的に、男も眼をあいた。

熟柿のような顔の眼は、まだ、いくぶんか、とろんとしている。が、将門は、錐みたいに見澄ました。そして、彼より先に、思い出したものらしい。その声には、懐かしさをこめていた。

「あっ、不死人ではないか。――八坂の不死人」

「おう、帰ったのか。小次郎」

男は、むっくり、起き上がった。将門の手へ、手を伸ばした。そして固く握りあった。胡坐と胡坐を対い合せ、顔と顔をつき合せ、二人は茫然と、相見てしまった。

「しばらくぶりだなあ。小次郎。いや近ごろは、将門といっているそうだが」

「うム。お久しぶりだ。まさか、客が和主とは、思わなかった」

「驚いたろう」

「正直。驚いた」

「あはははは。まあ、健在で何よりだ。なるほど、都でも聞いていたが、貴様の館は、大したものだな。さすが、坂東の豪族、桓武天皇の御子、葛原親王の末――平良持がいた頃の勢力がうかがわれる。