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たいらのまさかど
平の将門
吉川 英治
「小説公園」六興出版社、1950(昭和25)年新春号~1952(昭和27)年2月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 232,193 字 · 463 页
当ててみろ。何だか」
「分るものか。ひとの館にある物などが」
「ところが、和主は、見ているはずだ」
「おれが。はてな」
「羽鳥の良兼の館に、きれいなのがいたろう。都ぶりの、すこし年はとっているが、二十五、六の女が」
「え。……玉虫か」
「そうだ。いつかの年、大勢して、純友や、紀秋茂や、津時成などが、伊予に帰るのを、江口の遊里まで、送って行ったことがある。和主も一しょによ」
「ある。あるが……玉虫とその事と、何の関りがあるのか」
「打ちあけるが、彼女はおれの馴じみだった。純友と共に一夜騒いだ家とは、べつな遊宿の女だが、常平太貞盛は、よく通っていた。その貞盛が、ある折、上洛した良兼を案内したのが縁で、東国へ身を引かされて行った。それが羽鳥に囲われている玉虫だ」
信じられない。彼のいうが如き女性とは将門に、思えないのだ。高貴な、そして優しい親切な女性であった気がする。少なくとも彼の印象と感銘ではそうである。
「いずれ、わかる。とにかく、来年また訪れよう。おさらば……」
夜というのに、彼は、豊田を立って行った。馬の背を借るでもなく、どこへ泊るつもりかと、曠野に育った将門ですら、彼の棲息の仕方には、驚きを覚えた。