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たいらのまさかど

平の将門

吉川 英治

「小説公園」六興出版社、1950(昭和25)年新春号~1952(昭和27)年2月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 232,193 字 · 463 页

青空文庫

すぐ、その辺に、身を伏せていたものだろう。さっと、木蔭や草むらから、十人余りの人影が立ち、桔梗のそばへ近づいた。

さすがに、桔梗が、ア――と、かろい声を流した。ともう、彼女は、馬の背に、押しあげられ、鞍に、布でくくられ、東の方へ、駈け去った。

それを、遥かで待っている者の合図らしく、さっき見えた松明が、またしきりに、野面のうえで、うごいていた。――見ようによっては、野霜の翁と媼へ、何かを、焔で語っているともうけ取れる。

媼と翁は、家のうちへ戻ると、おたがいに、老いの涙のとめどなさを、慰めあった。

「ああ、寂しい。手のうちの珠を失うたような。……けれど、むすめの望みが、かのうたのだ。かなしいような嫁入りではあるが、桔梗の身になって、歓んでやれ。桔梗の心は、もう、豊田へ行っているであろ。いや、遥か野面に見えた松明は、聟殿がみずから振っていた炬かもしれぬ」

夜もすがら、この老夫婦は、桔梗が生まれた時から、きょうまでの想い出を、いくら話しても話しつきないように、語りあっては、泣き沈んでいた。次の日も、この具足師のやしきは、夜のように、ひそまり返っていた。