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たいらのまさかど

平の将門

吉川 英治

「小説公園」六興出版社、1950(昭和25)年新春号~1952(昭和27)年2月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 232,193 字 · 463 页

青空文庫

弟子たちは、部落の同職の人々へすら、

「桔梗さまが、きのうの夕方から、行方知れずにおなりなされた」

と、事実を隠していた。そして、

「平泉の人買いに、誘拐かされたか、野盗の群れに、攫われたやら」

と、わざと大仰に吹聴した。

こういう例はないではない。陸奥の俘囚(半蝦夷領)の勢力地へ行くと、美しい女が高価に売買されるという。また、はるばる都から美女を輸入してゆく人買いはよく北の方へ通って行く。

現に、数年前には、羽鳥の良兼の局にかこわれていた――あんな堅固な館のうちの女人すら、忽然と、姿が見えなくなってしまった実例さえある。

しかもこれは、国司の庁や、郡司の役所へ訴えても、どうしようもない事だった。あの羽鳥の良兼の勢力を以てさえ、ついに、愛妾の玉虫は、あれきり、どこへ行ったか、分らず仕舞いである。一時は、将門が隠したのだと、もっぱら嫌疑をかけて、探りを入れたが、真実、豊田にも、どこにもいないと分って、ようやく、ここ一、二年前に、噂もなくなっていたところだった。

名門息子

「何、何。――桔梗が行方知れずになったと」

源護の嫡男、扶は、その日、水守の良正の館へ遊びに出向き、まだ良正にも会わないうちの門前で、良正の家来たちから、その事を聞かされた。