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たいらのまさかど

平の将門

吉川 英治

「小説公園」六興出版社、1950(昭和25)年新春号~1952(昭和27)年2月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 232,193 字 · 463 页

青空文庫

将門は、涙をためて、読み終った。しかし、かなしい事は何一つないのだ。留守はみな無事だとある。そして、彼女は、終りの方に、

(お帰りのころには、あなたと私との、初めての和子が、豊田の館に、生れているかもしれません)

と、書いてあった。

彼女は、彼が上洛のまえから、妊娠っているらしいことを、良人の耳にそっと告げていた。

――と、もうひとつ、用事がしるしてあった。八坂の不死人が、陸奥の旅の帰りに立ち寄って、四、五日滞留しているという留守中の事を。

ちッと、心の奥で舌打ちに似た気もちがうずいた。あの無頼な男が、また将頼や将平などを、手こずらしているのであるまいか。わが家へでも、帰ったように、酒を出せの、どうせよのと、桔梗にも、難儀をさせていることだろう。……酒や我儘だけならよいが、桔梗は、あんな口達者で狷介な人間は見たこともあるまいから、もし、彼の強引なわるさになど懸らねばよいが、などと妙な不安にも襲われたりした。

一月の末。やっと、初めて、太政官のよび出しをうけ、彼は、おととし以来の、親族間の争いのいきさつを、詳しく申し立てて宿へ帰った。

帰ってから、独りで、しまったと、胸のうちでつぶやいた。