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たいらのまさかど

平の将門

吉川 英治

「小説公園」六興出版社、1950(昭和25)年新春号~1952(昭和27)年2月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 232,193 字 · 463 页

青空文庫

浮寝の巣

この有様です。もう、炎も矢も、防ぎはつきません。――殿にも、大結へお落ちあそばしますように」

「ついに、だめか」

狂風は、炎をあおり立てて、眼の及ぶかぎりを、火の海としている。しかも、敵影は見えないが、どこからとなく、敵の矢は、巨大な明りを目標に集中されていた。

父の良持が、生涯をかけて、土とたたかい、四隣と戦って、築きのこした物も、今や一ときに灰燼に帰すかと思うと、将門は、自分も館と共に灰となるのが、正しい死に方みたいに思われた。

けれど、桔梗を思い、乳のみ子の顔をえがくと、このままには、死にきれなかった。

浮寝の巣

豊田一帯の火は、夜になると、いよいよその範囲を、燎原のすがたに、拡げていた。

桔梗は、乳のみ子を抱いて、牧の馬小屋の中に、身をひそめ、

「わが良人は。将門様は」

と、そばに従いている老臣の多治経明にのべつ訊ねていた。

経明は、折々、丘へのぼって、赤い夜空をながめ、自分の生涯と、自分が仕えて来た前代良持からの半世紀に亘る土の歴史をふりかえって、

「ああ長い年月だった。また、短いつかの間の夢でもあった。空の星だけは、何も知らぬげに、悠久と、またたいていることよ。