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たいらのまさかど

平の将門

吉川 英治

「小説公園」六興出版社、1950(昭和25)年新春号~1952(昭和27)年2月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 232,193 字 · 463 页

青空文庫

鬼哭

……あ、兄者人を、どこか、よそへ、担いで行ってくれ」

鬼哭

たれか、密告した者が、あったのかも知れない。

羽鳥の良兼は、将門の妻子が、湖上の苫船に、潜んでいるのを、ついに、何かの手懸りから、知ってしまった。

すでに彼は、豊田郡の本拠を、占領して、狼藉、掠奪、破壊、やりたい放題なことはやった。

しかし、彼の本来の目的は、それにあるのではなく、じつに将門の首を見ることにあるのだ。

かんじんな将門を逸したことは、良兼にとって、なお一抹の不気味をのこしている。いつ彼が、兵を糾合して、報復に出てくるか分らないし、何よりは、筑波羽鳥の自分の留守が、不安になった。

「もういい。ぞんぶん、腹は癒えた。ひとまず、羽鳥へ引揚げよう」

凱旋の途中で彼は、将門の妻子の居場所を知ったのである。で、そのため急に、道を変えたのだ。鴻野、尾崎、大間木、芦ヶ谷と水路に添って来るうち、ふと、湖の東岸に近い芦の中に、三艘の苫船が、舳を入れているのを見つけた。しかも、その一艘の苫には、嬰児の褓が干してあった。

「あれへ、射込んでみろ」

良兼は、兵に、弓を揃えさせた。

数百箭の矢かぜが、一せいに、苫へむかって、放たれた。