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たいらのまさかど

平の将門

吉川 英治

「小説公園」六興出版社、1950(昭和25)年新春号~1952(昭和27)年2月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 232,193 字 · 463 页

青空文庫

と、弟たちの姿へいった。

「惜しいことをしました」と、将頼が答えながら馬を寄せて来た。「――生け捕りにして、郷里へ曳いてくれんと思いましたのに」

「なに。逃がしたのか」

「いや、自害してしまいました」

「自害したか――」と、将門は悵然と歎声の尾を曳きながら、

「憎い奴だが、さすがは、恥を知っている。自害したものなら仕方がない。将頼」

「はいっ」

「首を挙げろ」

「心得ました」

将頼は馬の背から飛び降りた。

将門以下、豊田の将兵は、そのとき、粛として、心に、凱歌の用意をしていた。

ところが、次の瞬間には、じつに計らざる事実が起っていた。

「や! こ、これは貞盛ではない」

と、首を挙げてみた将頼もいえば、また、周囲の者も、騒ぎ出したのである。

「太刀、具足など、貞盛の物を着けているが、貞盛の郎従、長田真樹だ――。長田真樹が、身代りに立ち、貞盛らしく振舞っていたのだ」

「では……当の貞盛は?」

と、将門の眼には、涙がこぼれかけて来た。

「供の郎従たちの中にまぎれて逃げ失せたか。それとも?」

乱戦のあとを思い出してみれば、小屋が黒煙を吐いたとき、中にいた渡船の老爺だの、土民らしい者が何人か、こけつ転びつ逃げて行った。