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たいらのまさかど

平の将門

吉川 英治

「小説公園」六興出版社、1950(昭和25)年新春号~1952(昭和27)年2月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 232,193 字 · 463 页

青空文庫

もうしばらく、時を待て」

師輔は、貞盛を力づけた。

貞盛が、表向きの訴文や裏面運動によって、官に求めているものは、将門を朝敵として、決定づける事にある。――けれど、朝敵の詔が発せられれば、当然、これが討伐には、正式な征賊将軍を任命し、また都から官軍を派遣しなければならない。

「たとえ、貞盛の上告文の通りであろうと、朝敵と断ずるのは、由々しいことである。将門を喚問しても、猜疑して上洛せぬとすれば推問使を下向させて、将門の真意と、実情を、たしかめて見るべきではあるまいか」

廟議は今、こういうところで低迷しているとも師輔は貞盛に洩らした。――貞盛としては、その廟議の帰決を、あらゆる方法のもとに、自分に有利に誘かなければならなかった。

今や、彼にとって、中央の方針の如何が、生涯の運命をひらくか閉じるかの分れ目でもあったのである。

夜々の辻

天慶二年の夏中は、夜毎夜毎、空也念仏の称名の声と、夢中でたたく鉦の音と、妖しいまでに踊り更ける人影に、都の辻は、異様な夜景をえがいていた。

「戦がある」

「大乱の兆しが見える」

「宮門の戌亥に、虹が立った」夜の人出に紛れこんで、こう囁き廻る者がある。