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たいらのまさかど

平の将門

吉川 英治

「小説公園」六興出版社、1950(昭和25)年新春号~1952(昭和27)年2月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 232,193 字 · 463 页

青空文庫

しかも、平和がきたのだ。――殺し合いと焼打ち騒ぎが熄んだのだ。――今日こそは飲むべかりけり、と酌みあい、差しあい、泥鰌のように、酔いもつれた。

――すると。日も黄昏に近く。

境内のそこここや、町屋の辻にも、かがりの火が、ほのかに、いぶり始めた頃。どこかで、

「喧嘩だっ」

と、いう声が、つき流れた。

急雨のような人の跫音、つづいて怒号。

「喧嘩だっ、殴りあいだッ」

「いや、喧嘩じゃない。斬り合いだ。いや、合戦だ」

「武芝の兵と、こっちの者と」

「――武芝方が、不意討ちを仕かけたぞ。油断するなっ」

きれぎれに、そんな大声が、飛び乱れる。

「――素破」と、六所神社のうちでも、総立ちになった。

何しろ、酔っていない者はない。おまけに、陽も暮れはじめた夕闇だ。

「騒ぐな」

と、将門は、声をからして、制したが、鎮まればこそである。

あわてた人影は、その将門を、後ろから突きとばして、武器を小脇に、駈け出してゆく。

「将平。――見て来い」

兄のいいつけに、将平は、飛んで行ったが、はや森のあちこちでは、取ッ組みあいや、白刃のひらめきや、数百頭の闘牛を放したような乱闘が、始まっている。