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たいらのまさかど

平の将門

吉川 英治

「小説公園」六興出版社、1950(昭和25)年新春号~1952(昭和27)年2月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 232,193 字 · 463 页

青空文庫

すべては讒者の作り事です。そしてその讒訴にたぶらかされて、ありもせぬ幻影に悩まれておるのが、堂上の諸卿ではありますまいか」

と、自身の認めた弁明の表と共に、これを多治真人に提出した。

「神妙です」と、真人は、彼を好意に見た。

表と解文を携えて、やがて彼は、ありのままを忠平に報告すべく、京都へ帰って行ったのである。

ここまでは、まず、無事であった。

この約半年ほどの短い無事の期間こそ、将門の一生涯を通じても少ない“無事の日”であったかも分らない。

豊田の新邸も、竣工していた。

彼はそこに移り、人数の一部は、鎌輪ノ柵に残った。また石井ノ柵にも、大葦原にも、守谷の御厨にも、彼の弟たちが、家人郎党を分かって、それぞれに定住した。

初めは、客分として、将門の館に身を寄せていた八坂の不死人も、いつか将門の家臣同様に、彼に仕え、

「相馬殿――」と、彼を崇め、また内にあっても「お館」と敬称して、もう以前のような悪友ぶりや非礼は決して現わさなくなった。

将門自身の貫禄もまた、自ら以前とはちがって来ている。

今や、彼の衆望は、たいへんなものであった。かつての常陸大掾だの、源護だの、羽鳥や水守の叔父たちの下にあった土地と人間とは、招かずして、草木のなびくように、彼の門へ、彼を慕って、集まって来た。