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たいらのまさかど
平の将門
吉川 英治
「小説公園」六興出版社、1950(昭和25)年新春号~1952(昭和27)年2月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 232,193 字 · 463 页
――おれにとっては、忘れ得ない初めての女。それが蝦夷萩なのだ。そう呼ばせてくれ」
「ひどいお館ですこと。私は私でないんですね」
「いや、おまえは、蝦夷萩だ」
「いいえ、草笛ですよ、わたくしは」
「うそをつけ。これでも蝦夷萩でないか」
抱きすくめて、息がつまる程、草笛の唇をむさぼった。薄い肩をふるわせ、眉をひそめて、三日月形に身を反らした女の姿を、将門は、遠い日に死に別れてしまった蝦夷萩が、今も在る姿と見るのであった。
「……や、これは……。悪い折でしたかな」
廊の外に、不死人の影が、立ち淀んでいた。
「おう、不死人か。べつに見られて悪いほどな事じゃない。這入ったらどうだ、こっちへ」
「では、お取次だけここから申しておきますが」
「うむ、何だ?」
「武蔵の興世王という者が、今、御門前へ、同勢二十騎ばかりで見えましたが」
「あ、また泥合戦の末、仲にはいってくれとかなんとか、仲裁事の頼みだろう。おぬしが会って、用向きを訊きおいてくれ」
「では、先年、府中へ出向かれて、和睦にまで成りかけたものを、当夜の喧嘩で、またぶち壊してしまったあの一方の者ですな」
「そうだよ。前の武蔵権守興世という男だ」