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たいらのまさかど

平の将門

吉川 英治

「小説公園」六興出版社、1950(昭和25)年新春号~1952(昭和27)年2月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 232,193 字 · 463 页

青空文庫

「何と、わが大殿は、情にもろく、そして、女子のように、お気が小さい事よ」

と、興世王が、やや意識的に、将門へ戯れた。

将門は、果たして、かっと怒った。

「おい、興世。どうして、おれが女みたいに、気が小さいというか」

「でも、いつまでも、桔梗さまの愚痴を仰っしゃいますから」

「笑え。笑わば笑え。おれは、忘れ難いのだ。……愛しい桔梗を。……そればかりか、あのような酷い目に遭わせて死なせたと思うと、泣かずにいられない」

「天下には、桔梗さまにも勝る美女は、星のごとくおりますものを」

「天上の星を何かせん。……おれはただ一輪の桔梗が恋しい。だが、踏みにじられてしまった」

「敢ない事でございます。けれど、死んだお方が甦るはずもありません。お心をふるい直して、どうか、桔梗さまに勝るお方を、天下の野辺におさがし下さい」

「それほどな女性が世にいようか」

「あははは。おりますとも」

それは、満座の笑い声だった。将門は、はっと、われに返ったような顔をした。まが悪そうに、大杯で顔を隠した。

「――大殿」と、興世は、膝をすすめた。同時に、不死人や玄明も、左右から、つめよるように、将門に迫った。