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たいらのまさかど

平の将門

吉川 英治

「小説公園」六興出版社、1950(昭和25)年新春号~1952(昭和27)年2月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 232,193 字 · 463 页

青空文庫

上申文

戦っては悔い、勝っては悔い、八ヵ国の官民に、万歳を以て迎えられるや、いよいよ、人知れず、後悔の蝮に、腸を噛みちらされていた。

上申文

将門は楯の両面を持っていた。一面には暴兵の首将として、八州を席巻しながら、また、一面のそうした小心さにはのべつ破れていた。そしてその正直な自己をなぐさめるべく、年の暮、この大宝郷に滞陣すると共に、一夜、大宝八幡の神殿に、ひとり燭をかかげ、寒机に向って、一文を草した。

それは、真実の身分を披瀝して、中央に訴えんとする上告文であった。

むかし、十六歳の弱冠から、車舎人として、都で仕えた藤原忠平を、心にたよって――摂関家への、上訴と、そして情状の酌量をも仰いだ――彼としては、一字一行も、涙なきを得ない、衷心を吐露した文書である。

それは、かなり長文ではあり、かつ、古文の態を、そのままに見るのでなければ、将門の心底の声は響いて来ないであろう。――で、次に、その全文を、原文(将門記ニ拠ル)のまま載せておくことにする。しかし、煩わしいと思われる読者は、その一項を省略して先へ読み進まれても、この小説への筋の関連にはたいして支障はないと思う。