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たいらのまさかど

平の将門

吉川 英治

「小説公園」六興出版社、1950(昭和25)年新春号~1952(昭和27)年2月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 232,193 字 · 463 页

青空文庫

道の端や、軒下に、黒々とうずくまって、彼を送迎しているかたちの土民たちは、口々に、新皇様だ、と囁きあった。いつもより恐ろしそうに、そして、上げることもゆるされない首のように、地に低く垂れたまま、じっと、馬のつま先だけを、上眼で見ていた。

「……はてな?」

将門は、へんに思った。

けれど、その日の行く先々の路傍で、彼は同じような庶民を見、また、自分をさして、新皇様と、恐れ囁く声を聞いた。まるで、悪夢を見つづけているような思いである。そうした彼は、やっとわが家の門を見た日、初めて、自分のものらしい息を、ほっとついた。

天子節刀を賜う

坂東、大乱に陥つ。

という公報が、都へとどいたのは、暮もおしつまった十二月末である。

東八ヵ国の官衙から、蜂の子のように叩き出された国司や府生たちが、やがて、命からがら、都へ逃げ上って来ては、

「いやもう、大変というも、おろかな程だ。まさかと思っていたが、やはり将門の謀叛気は噂だけではなく、ほんものだった」

といい、

「あのぶんでは、相模、遠江と、順に国庁を焼き立てて、都までを、騒乱に捲きこむかもしれぬ」

などと、恐怖的なことばを、火の粉のように、ばら撒いた。