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たいらのまさかど

平の将門

吉川 英治

「小説公園」六興出版社、1950(昭和25)年新春号~1952(昭和27)年2月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 232,193 字 · 463 页

青空文庫

勝ち誇った双眸である。血も血と見えない顔つきである。――せめてその前に、もう一個の貞盛という者を見たがっていただけである。荒ら駒の躍る背に、彼は、それだけを、探していた。

刹那――彼の顔に、矢が立った。

「…………」

何の声もなかった。

戦い疲れた顔が、兜の重みと、矢のとまった圧力に、がくと、首の骨が折れたように、うしろへ仰向いたと――見えただけである。

馬から、どうと、地ひびきを打ってころげ落ちた体躯へ向って、たちまち、投げられた餌へ痩せ犬の群れが懸るように、わっと、真っ黒な雑兵やら将やらが、寄りたかっていた。あっけなく、天下の騒乱といい囃すには、余りにも、あっけなく、相馬の小次郎将門は、ここに終った。

その陣没は、天慶三年、二月十四日。時に、年歯はまだ三十八歳であった。

将門遺事

何があっけないといって、史上では、将門の死ほど、あっけないものはない。

が、彼としては、精いっぱい、生きるだけ生き足掻いた事ではあった。

だが、彼が生存していては、自分の生存に都合のわるい人々が、彼を死へ急がせた。なぶり殺しにしたといってもよい程に。

この日、彼に殉じて、斬り死にした者、百九十七人というのが、後に、下野の国庁から都へ報告された数である。