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たいらのまさかど

平の将門

吉川 英治

「小説公園」六興出版社、1950(昭和25)年新春号~1952(昭和27)年2月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 232,193 字 · 463 页

青空文庫

「そこまで、一しょに来ないか。仕事はうまく行ったし、涼やかな晩だ。約束どおり、飲もうよ、今夜は」

小次郎にとっても、小一条に仕えて以来、かかる自由を得た夜は初めてである。殊には、いまや主人の忠平も、自分に負け目をもっている。それだに、愉快でならないところへ、彼は、不死人という人間に、先夜以来、甚だ心がひかれていた。これが、賊とよばれる悪人だろうか。信じられない程、何か、あたたかなものを感じていた。――そうだ、少年の日、大結ノ牧の馬にも、こういう情愛を感じていた。彼は、およそ父と死に別れてから、そういうものに、飢えていた。馬にすら、盗賊にすら、それを感じると、離れがたいここちになる。

意外だった。不死人に誘われて来た家は、四条六角堂の木立を横にした大きな公卿やしきである。このあたり、おちこちに、門戸のみえる第宅も、みな然るべき朝廷の顕官が多い。――不死人は、大きな平門の袖扉をたたき、まるでわが家のようにはいって行った。式台に出迎えた青侍にも、一瞥をくれただけで、

「おられるか。純友は」

といった風。

はばかる小次郎を、ふりむいて、

「友だちの家だよ。上がり給え」