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こきょうしちじゅうねん

故郷七十年

柳田 国男

「神戸新聞」神戸新聞社、1958(昭和33)年1月9日~9月14日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 257,350 字 · 507 页

青空文庫

家の寿命

と、歌の文句が変ったので、思わず苦笑したという思い出もある。

家の寿命

母の母の名は、私は尋ねずにしまった。里は飾磨津の相当に古い家だったらしいが、この方は一度か二度、名を教えてもらったのを忘れてしまった。古ければこそ滅びて跡形もなくなってしまうのである。私は明治二十六年の夏、最初の入学試験(一高)を通って、御ほうびに始めて国へ帰る旅費をもらった。井上の兄は二度目の結婚をして、姫路の病院に勤めており、次弟も京都から来てしばらく一緒にいた。まだあのころならば何とか手掛りもつかまえられたろうに、どうして一ぺん往って見ようという気もちにならなんだか。その際は母もまだ丈夫で、問えば何でも答えてくれたのにと、時過ぎてから無益に悔んでみたことがある。

これとは反対に、余分の労苦を費して、兄も私も結局得る所のなかったのは、母方の大叔父にあたる尾芝俊明という人の事蹟であった。小さな時からの松岡家のいい伝えでは、この人は皆川淇園先生の門に学び、事成って大和の某藩に抱えられた、というだけしか伝わっていなかった。私は早合点の名人という以上に、一方にあまりにも痛ましい母の家の衰微を見るにつけて、どこかにまだ一筋、学問で世に立つ家が、残り伝わっていてもよいというような夢があったのである。