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こきょうしちじゅうねん

故郷七十年

柳田 国男

「神戸新聞」神戸新聞社、1958(昭和33)年1月9日~9月14日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 257,350 字 · 507 页

青空文庫

匿名のこと

例えば丹波の黒豆の大きさや、そのふっくらとしたよさは全くすばらしいものだと思う。山国であるため、ああいったもので勝利を博そうとしたものであろうか。

私が丹波を通過したことは二度ばかりあったが、もっと頻繁に訪れておけばよかったと悔まれることである。ことにわれわれ民俗学に志す同志の者は、農村調査のためによく丹波へ旅行するから、そこについての知識は相当にあるものの、私の訪れた回数は少ない。福知山の方から二人曳きの人力車で杉原谷(現加美町)を経て多可郡を横切り、帰郷したことがあったが、それは昭和六年丹波に美しく桜の咲くころであった。

忘れもしないのは、山の高みに寺があり、その周囲に枝垂桜が乱れ咲いており、そのように美しい風景は二度とみたことのない印象であった。山桜でない里桜の山奥に咲いていたのが、とくに珍しく感じられたわけである。

匿名のこと

故郷のことを思い出すとき、私には生れた辻川よりも、むしろ北条の町の方に印象が強いというのも、やはり私がいくらか成長した後で住まった土地のせいであろうか。

北条という町は、もう少し郷土史の研究家たちによって探索さるべき土地柄なのであろう。