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こきょうしちじゅうねん
故郷七十年
柳田 国男
「神戸新聞」神戸新聞社、1958(昭和33)年1月9日~9月14日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 257,350 字 · 507 页
非常にいい人で、後には私のやっていた紅葉会という歌の会にも入って、松浦先生の門人になったりした。もっとも先生の方ではあまり歌をほめず、細君むつ子さんの歌の方がうまいなんていっておられた。湖処子の小説として有名な『帰省』の中に出て来る理想の婦人というのが、この細君である。私は湖処子には一、二遍会ったきりで、松浦先生へもあまり来ないし、後には居所も判らなくなり、亡くなった時には通知もうけなかった。弟が一人あって牧師になったが、この人も長生きしなかったように聞いている。『帰省』という本は、理想の細君をもらうというだけのことを書いたものであるが、この中に出て来る「故郷」という概念は、あの時分の若いものの考えの、代表的に表わされたものであった。湖処子の郷里は九州の筑後川のほとりの、秋月領に入った所である。ごく静かな通り路で、湖処山という有名な黄楊のたくさんある山があり、この山の下の村である。
『帰省』は小説ともつかず、感想文ともつかない、新旧の中間になる文学であるが、大変大勢の人に愛読され、われわれもその熱心な読者であった。この中にいう「故郷」が、今私が「故郷七十年」