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こきょうしちじゅうねん
故郷七十年
柳田 国男
「神戸新聞」神戸新聞社、1958(昭和33)年1月9日~9月14日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 257,350 字 · 507 页
菊池、芥川の両君とか、ことに久米君などは、同じような所を歩いていながら、今までの田山のやり方を野暮だとか何とかいったり、田舎臭いと罵ったりして、やって来たわけであった。私は前に坐っていた久米君の顔を見ながら、そんな冗談をいったことを今も憶えている。
そんなのが田山の一生であった。私は非常にふるい友達でいながら、何とも評価しようとしなかったばかりでなく、世間で田山の小説をほめたりすると、むしろ首をかしげたりしていたが、関係は大変深いのである。
田山に『東京の三十年』を書くようにすすめたのも私であった。ドーデの『パリの三十年』というのから刺戟をうけて、田山に、「君、東京生活が三十年になったら、こんな本を書くんだねえ」といったことを憶えている。たしか田山の本の序文に、そのことが書いてあったように思う。
日本の文壇でツルゲニェーフを非常に崇拝して推奨したのは、われわれの一派であった。ドーデがいつしかツルゲニェーフに代って行った。田山なども、フランスで出たツルゲニェーフの仏訳本と同じ体裁で、イギリスで出た英訳本を買って読んでいた。まだモオパッサンは出て来ないころである。