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こきょうしちじゅうねん

故郷七十年

柳田 国男

「神戸新聞」神戸新聞社、1958(昭和33)年1月9日~9月14日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 257,350 字 · 507 页

青空文庫

木戸君からいろいろなことを教えてもらった。「これをよく見て行き給え、これが“尾花がもとの思い草”というものだ。薄の根元に生えているラッパのように、先の開いた綺麗な草だが、この辺では煙管草と呼んでいる」と、そんなことも教えてくれた。思い草というのは『新古今集』などにたくさんうたわれていて、たしか和泉式部のうたに、

野辺みれば尾花がもとの思ひ草枯れゆく冬になりにけるかな

というのがあった。

木戸君とは水戸までであったか、あるいはその途中までであったか、同行して別れた。その親切な先輩の忠太郎君は、前から学校で知ってはいたが、話したのはそのときが初めてだったと思う。

水戸に泊って常磐神社にまいり、夏の盛りだったが、宿賃が二十二銭、やっぱり弁当がついていた。そのころ弁当は多分三銭くらいなものだったのだろう。その翌日は太田の西山荘(西山公徳川光圀の別荘)も拝見して、一泊した。それから海岸に近い松林の中にある村越の虚空蔵様に行った。今日の東海村原子力研究所の近くである。それから磯崎に行った。ここは那珂の港からもう少し向うにあって、大洗と別なところである。そこに一泊し、翌日は銚子泊り。