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こきょうしちじゅうねん

故郷七十年

柳田 国男

「神戸新聞」神戸新聞社、1958(昭和33)年1月9日~9月14日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 257,350 字 · 507 页

青空文庫

そのころの東京は、田舎者の立身する場所のようになっていた。いわゆる笈を負うて東京へ出て来る者は、等しく貧しい者が多かった。その中でもいちばん普通だったのは、昼間働き、夜はそのころ流行った夜学校へ行く、そして郷土の先輩等に頼んで玄関などにおいてもらい、書生をしながら学校へ行くのが多かった。高等学校の予科二級四ノ組にいた時、一人非常に年とった憂鬱な男がいて、いつも前の方に坐り、後の方の人間と没交渉で勉強している。後できくとその人は俥夫をしながら勉強している者で、時間が惜しいので、なるべく吉原の付近で働いて、思いがけなく都合のいい収入を計り、朝のうちだけ学校へ出ていたという話であった。パトロンでもない限り、昔でも苦学生というのは自立してやっていては、なかなかうまく行かなかったようである。

ただそんな中にあって、そのころの特色として「坊っちゃん」というクラスが台頭し始めた。私が次兄につれられて、初めて横浜から東京へ来る汽車の中で、ビスケットを女中から受取っていた若様みたいな人達は、もとはわれわれとは接触もないし、数も非常に少なかったが、見ているうちに「坊っちゃん」