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こきょうしちじゅうねん

故郷七十年

柳田 国男

「神戸新聞」神戸新聞社、1958(昭和33)年1月9日~9月14日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 257,350 字 · 507 页

青空文庫

私の柔道はただ転んだ時に頭を打つようなことさえなければいいと、最小限度の目的をもつばかりで、仲間がどんどん上手になっても、いっこう平気であった。その時の稽古仲間がいまだに一人拙宅へやって来る。宮本さんという、私より一つ年上で、火災保険の取次店をしている人である。

この町道場の経験があったので、私は高等学校でも寒稽古に行った。来ている仲間は、乾政彦を除けばたいてい上級の身体のいい連中ばかりであった。このごろよく会う旧友井上匡四郎も、そのころはまだ岡松といって、クラスは一年上だったが、非常に柔道に熱心であった。寒稽古の時、痩せた相手とやると痛いので、私はいつでも岡松が来るのを待っていて、彼と組むことにしていた。彼ばかりは肥っていてぶつかっても痛くないのである。明治二十六年に寒稽古をしてもらった相手で、まだ元気でいる人が一人いる。それ以来会っていないが、斯波孝四郎君という、大人しい、おっとりしたりっぱな人で、私はいつも尊敬の的にしていた。兄さんの忠三郎君の方は、その後もしばしば会って孝四郎君の噂をしたことだったが、造船で長崎にゆき、会う機会もなく、それっきりになっている。