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こきょうしちじゅうねん

故郷七十年

柳田 国男

「神戸新聞」神戸新聞社、1958(昭和33)年1月9日~9月14日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 257,350 字 · 507 页

青空文庫

シナ大陸旅行

蜑民の舟なのである。六十近い客扱いになれた快活な婆さんが、若い息子と二人でのっていた。言葉もよく通じないのに、その婆さんが私にいろいろなことを話してくれた。いわゆるシイ・ジプシイ(海の漂泊者)で、福州あたりが根拠地になっている。

子供が大きくなって一人前になると舟を造ってやる。すると子供は嫁を貰って、新しい舟で自分の世界にとび出してゆく。この婆さんにも三人の子供があったが、上の二人が独立したので、自分は古い舟に末っ子と二人で乗って仕事をしているわけである。必要上の末子相続で、その意味からでも蜑民の生活は非常に興味をひかれた。広東の周囲には、蜑民が舟で開いている大きな料理屋があったりして、すっかり客ずれがしていた。

シナ大陸旅行

やっと英国船に部屋があったので上海に向った。上海では河合良成君であったろう、視察に来ていた。大谷光瑞さんにもいろいろ世話になったし、早稲田にいたころ、たびたび私の家に来たことのある、日本語の非常に達者な戴天仇の案内で、孫文に会って話をしたこともあったが、その内容はよく憶えていない。

やがて長江通いの日清汽船で漢口へ溯った。船の中でまだ三十代のアメリカ宣教師と話し合うようになり、日本のことを根掘り葉掘り聞くので、こちらも英語の練習のつもりもあって一々答えていたが、終には面倒になる程で