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こきょうしちじゅうねん
故郷七十年
柳田 国男
「神戸新聞」神戸新聞社、1958(昭和33)年1月9日~9月14日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 257,350 字 · 507 页
という風に鳴いていたのであった。そうしたある日の昼下り、家の裏手からふと台畑の方へ目をやった私は、凝然と立ちすくんでしまった。そこに二匹の狐が坐っていて、それが私の方を見ているように感ぜられたのである。何の理由もなく、体が動かなくなる思いであった。その翌日東隣の野沢藤四郎という主人が、突然発狂してその妻女を斬り殺し、さらに西隣の主人小川虎之助の許へ赴いて、矢庭に斬りつけるという事件が起ったのである。この事件は狐の穴を埋めた祟りであろうと、近所の人々がうわさするので、子供心に恐怖心に捉われたものであった。
殺傷事件を起した野沢の主人が人力車にのせられて水戸の精神病院に送られる途中、家の前を通る時、狂っていながらもわが子の名を呼び、いとけない伜もそれに答えていた姿が、はじめて二匹の狐を見た時の印象とともに、思い出されるのである。
私の子供のころ辻川には狐狩りという行事が、一月十四日の夜から翌朝にかけて行われていた。戦後間もなくあの地方を訪れた池田弘子さん(現ハワイ大学教授)は、福崎町八千種の古老から、その部落では残っていると聞いた旨を報告してくれた。