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こきょうしちじゅうねん
故郷七十年
柳田 国男
「神戸新聞」神戸新聞社、1958(昭和33)年1月9日~9月14日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 257,350 字 · 507 页
大師講
他の祭のように取り立てて行事もなく、子供にとっても別段日ごろと変ることはないが、ただニジュウソという日があることはあった。私らはネジグソだなどと、下品な悪口で呼んだものである。十一月二十三日、いわゆる霜月三夜のこの行事は、辻川より東の方、美嚢、加西付近にゆくと、まだ重要な行事として残っている。
中部地方から東の各県や、北陸一帯、また山陰も但馬から西、島根付近までは、この日を大師講と呼んで、弘法大師や元三大師などの話に結びつけている。二十三夜の晩、ある貧しい老婆の家に大師が訪れて来られたが、何も差上げる食物がなかったので、悪いとは思いつつ隣家の田にしのび入って、稲穂を盗んで来て進ぜたとか、隣の畠から大根をひきぬいて大師に供したとかいう語り伝えがある。老女は足がすりこぎのようになっていたので、足跡ですぐ分ってしまうから大師がその志をあわれんで、雪を降らせて足跡を隠して下さったとかいうのである。あるいは東北地方も端々にゆくと、大師は女性で二十三人もの子供があったので、食物を与えるのにいちいちの子供に手がとどかないため、長い箸を使ったという伝説がある。そのためこの日供えるお粥や団子には二本の長い箸を添える風習もあって、いわゆる歴史上の大師や太子に関係のない伝承が多い。