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こきょうしちじゅうねん

故郷七十年

柳田 国男

「神戸新聞」神戸新聞社、1958(昭和33)年1月9日~9月14日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 257,350 字 · 507 页

青空文庫

ところが、船荷に沢庵石ではどうにもならない。そこでくやしまぎれに、みなが寄ってたかって石をなめたというのである。

さて益子から南流する小貝川は泥沼から来るので、利根に合流すると穢くもあるし、臭くもなってしまう。ただ一つ鬼怒川だけは、実にきれいな水の流れであった。奥日光から来るその水は、利根川に合流しても濁らなかった。船から見ても、ここは鬼怒川の落ち水だという部分が、実にくっきりと分れていてよく判る。利根川の真中よりは千葉県の方へ寄った所に、鬼怒川の流れがある。

布佐の方ではあまり喧しくいわないのに、布川では、親の日とか先祖の日には、このきれいな鬼怒川の水をくみに行った。布川は古い町なので、一軒一軒小さな舟を持っていて、普段は使わないで岸に繋いでおくが、こういうものの日には小舟で行ってくんできて、その水でお茶をのむことにしていた。普段は我慢して、布川の方へ寄って流れている上州の水をのんでいるのである。上州の水が豊に流れているその向う側に小貝川の水が流れ、それを通り越して千葉県によった所に、鬼怒川の流れが、二間幅か三間幅に流れているのであった。

布川のこの小舟は、向う岸に渡るためのでもなく、上の村と下の村とをつなぐものでもなかったらしく、「お茶のお舟」