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こきょうしちじゅうねん

故郷七十年

柳田 国男

「神戸新聞」神戸新聞社、1958(昭和33)年1月9日~9月14日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 257,350 字 · 507 页

青空文庫

いまもあのあたりの記憶が幻のように私の胸には蘇える。鈴の森神社から斜めに下りると、そこが崖になって小さな流れがあり、蟹も遊んでいようという、私らの遊び場で、そこにはアカイワシという、冬、茎が赤くなる濶葉樹があり、これを刀代りにして遊んだ。

上田秋成の紀行文を読んでも、彼がどのあたりから北に折れて生野への道をとったのであろうか、堰溝のほとりであろうか、私の家のそばの上坂のところであろうかと、私の空想は楽しくひろがるのである。

辻川の南を岩尾川という綺麗な細い川が流れている。北条の方から来る所に橋があり、その橋は私の見ている間に石橋にかけ代えられたのでよく知っている。それは姫路から来る国道がついた時のことであった。その少し上流に岩尾神社というお宮がある。妙徳山の鎮守さんだったらしい。それに向って左の所に私らが通った昌文小学校があった。

妙徳山というのは古風な寺で、どういうわけか、支院ばかりいくつもあって本寺がない。妙徳山に一月の十六日か十五日に「鬼追い」という年中行事があった。子供にとっては、その行事はいちばん大きい興奮で、今もよく憶えている。

「おん、そこじゃい。