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こきょうしちじゅうねん
故郷七十年
柳田 国男
「神戸新聞」神戸新聞社、1958(昭和33)年1月9日~9月14日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 257,350 字 · 507 页
生家にあった子供の本
前にのべた東北の鈴木家で、真澄などが泊ったのは真中の部屋であったという話である。表の客間は、もっと格式のある偉い人のために用い、真澄のような旅の歌詠みが来ても中の間に泊めたわけである。辻川の三木家などでも、郡長とか県の役人が来て泊るのは表の客間で、普段は空けてあった。そして私などはいつも中の間に泊めて貰っていた。
私の生家に本が少なかったことが、かえって私を本好きにし、そして家が小じんまりしていたことが、私に日本家屋の構造に興味をもたせるようになったのは、面白い経過であったと思っている。
生家にあった子供の本
祖母小鶴は私の生れる二年前、すなわち明治六年に世を去った。昔あった道端に近い、多分二階家であったらしい家で、寺子屋を開いて大勢の子供を教えていた。もうこの旧い家のことは誰一人知った者もない。明治八年に私が生れた時分の家は他所から移して来た前記の小さな家に変っていた。
両親としてはこの家を建てるのに入り用が多かったに違いないから、いろいろのものを処分したことが想像せられる。代々学問をした家で、父も大変本好きだったのに、私の物心がついたころには、あまり蔵書がなかった理由も、そんなところにあったのかも知れない。