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しのげんり

詩の原理

萩原 朔太郎

「詩の原理」第一書房 、1928(昭和3)年12月15日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 153,641 字 · 305 页

青空文庫

あのあまりに独逸的な、権力感情的なニイチェが、何故に自国で読まれず、逆に南欧の外国で読まれたのだろうか。けだし独逸人は、ニイチェを理解すべく、彼自身があまりに実際の軍人であり、あまりに実際の権力主義者でありすぎたのだ。詳しく言えば、独逸人に取って悦ばれるのは、常にヘーゲルであり、デカルトであり、カントである。それらの哲学は、純粋に没情緒の概念で固めつけられ、がっしりとしており、組織的の方程式で成立している。そこには女性的な弱い心や、神経質なものや、ぐにゃぐにゃしたメロディアスのものがなく、冷酷な理智的な頭脳によって、規律正しく組織的に分析された、概念のリズミカルな配列がある。そして独逸人が悦ぶのは、実にこの男性的な、がっしりとした、真にクラシカルな哲学の美なのである。

こうした独逸人の趣味にとって、ニイチェの狂号する哲学は、あまりにヒステリカルで、神経質の女らしいものに感じられる。彼等がそれを軽蔑し、不快な冷笑を以て迎えたのは当然である。しかしながら吾人は、かかる独逸人の趣味の中に、何等「詩」の理解がないことを確信する。なぜなら詩とは、独逸人の愛する如き純のクラシズムの美ではなくして、むしろかかる権力感へ飛翔すべく、身構えられた主観の躍動にあるからだ。