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たいらのまさかど
平の将門
吉川 英治
「小説公園」六興出版社、1950(昭和25)年新春号~1952(昭和27)年2月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 232,193 字 · 463 页
忠平に、そのあとを贈呈するのはおもしろい。……小次郎、おぬしも、あの大臣の顔を、時々、ながめるだけでも、愉快だろうが、しかし、いうなよ、その事は」
小次郎は、晩く、小一条へ、帰った。
次の朝、彼のみそっと、紫陽花の壺へ呼ばれた。ただひとりで、庭さきに、うずくまっていると、忠平は、病人みたいな顔して、廊にあらわれた。
「どうじゃった? ……小次郎。彼女は、返してよこすであろうな」
訊くにさえ、小声である。しかし、小次郎の返事を得て、忠平は、大げさに、眉をひらいた。まるで、よくきく薬でものんだように、機嫌をよくして、
「そうか。……イヤそうであったか。大儀大儀。二、三日あとになっても、ぜひはない。安堵したぞよ。彼女の体さえ、戻るとわかれば」
そして、なお、こういった。
「そちも、当家に仕えて、はや六年ほどにはなるのう。あとで、家司の臣賀に、申しておこう。……きょうよりは、小次郎を、青侍にとりたてて、遠侍の間において、働かせいと」
これは、思いもうけない、恩命であった。小次郎として、これがもし、紫陽花の君の事件がない前であったなら、地にぬかずいて、感泣したかもしれなかった。