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たいらのまさかど

平の将門

吉川 英治

「小説公園」六興出版社、1950(昭和25)年新春号~1952(昭和27)年2月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 232,193 字 · 463 页

青空文庫

帝は、さっそく、白女を召されて、

「鳥飼の地名を詠み入れて、一首詠め」

と、その歌才を、試みられた。

浅みどりかひある春に逢ひぬれば

霞ならねど立ちのぼりけり

白女が、すぐ、こう詠んだので、宇多上皇は、彼女が、以前の家がらや身を恥じている心根を察して、

「よしないことを、思い出させた」

と、酔い泣きをさえ、催された。そして袿衣と襲ねを、与えたので、居合せた皇子や朝臣たちも、思い思いに、物を与え、

「何か、生活につらい事があったら、遠慮なく院へ奏聞せよ」

と、なぐさめて帰したということである。

上皇は、それからも、たびたび、白女をよんで、寵幸、ただならぬものがあったが、鳥飼の離宮には、ほんの夏の一ときだけしかおいでがないので、南院の七郎という者にいいつけて、平常にも白女の生活を、何くれとなく、後見させ――庶民の間にも少ない人情をお示しになったという。

これは「大和物語」にも載っている話で、当時、この遊里の、語り草になったことであろうが――純友、不死人、小次郎などが、まみえた遊女たちのうちには、上皇の御感に入るほどなたおや女は、どう見ても、見あたらなかった。