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たいらのまさかど

平の将門

吉川 英治

「小説公園」六興出版社、1950(昭和25)年新春号~1952(昭和27)年2月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 232,193 字 · 463 页

青空文庫

「御子っ、なにをいい召さるッ。そんな悪たいばかり申さるる故、叔父御たちからも、忌まるるのじゃ。大掾さまの、召さるるに、来んという答えが、あろうかやい」

「うるせえッ」と小次郎は、突ッ放して、「そうなら、そうと吐かせば、おらだって、歩ばぬと、いうかやい」

ぷんぷんと、面ふくらせて、先に、歩き出した。しかし、嫌で嫌で堪らない気がするとみえ、眼は、ぼたぼた、涙をたらしていた。

その晩、彼は、大叔父の腹心らしい家臣から、一つの急用を、命じられた。大叔父の国香や、小い叔父たちが、奥で酒もりしているらしい間にである。

「明日、柵の厩の栗毛を曳いて、横山ノ牧へ、行てくだされ。こちらの牝馬の栗毛へ、横山の名馬と評判のたかい牡馬のタネを、もろうて来るのじゃ。タネ付け料も、絹や稲などで、先に払うてあるし、仲介ちの者から、この一月、とうに話もついておること。いまは、春蚕を飼うので、手もない時故、御子ひとりで、行てくだされ。行けぬことは、あるまいがの」

小次郎はむしろ、よろこんだ。幾日かの解放をゆるされたように、いそいそして、母屋から遠くの屋で、独りぼッち、眠った。

すると、真夜中に、蝦夷萩が忍んできて、彼を、ゆり起した。