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たいらのまさかど

平の将門

吉川 英治

「小説公園」六興出版社、1950(昭和25)年新春号~1952(昭和27)年2月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 232,193 字 · 463 页

青空文庫

おれは、正直者だった」

「いや、その愚直は、直るまいよ。――お互いにだ」

「君は、賢い」

「はははは。賢ければ、なんで、南海の片隅に、いつまで、六位ノ地方吏などして、くすぶッているものか。とうに、都へ出て、左大臣忠平ごときに、大きな顔はさせておかない。――おれの祖父は、関白基経の弟だ。――陽成、光孝の二帝の朝に仕え、藤原氏の繁栄をひらいた基経の血すじなのだ」

純友の語気は、悲調をおび、充血した眼に、涙が光った。南海の狂児と、いつも、自嘲していう、持ちまえのものだった。

「伊予にいれば、国司の腐敗や、郡司の弱い者いじめが、目にふれて、黙っていられなくなるし、都に出れば、朝廷を栄花の巣にして、明け暮れの猟官、夜も日もない宴楽、小刀細工をして立ち廻る小人輩の讒訴だの、何だの、かだの……。この気もちの、置き場がない」

純友は、杯で、面をかくした。途中の寺院で乞うて来た杯。それを、小次郎に、つきつけて、

「飲まんか。――おぬしも、桓武天皇から六世。正しく、帝系の御子ではないか。しっかりし給え」

「そうだ。おれも……父の生きていた頃までは、故郷では、御子とよばれていた」