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たいらのまさかど

平の将門

吉川 英治

「小説公園」六興出版社、1950(昭和25)年新春号~1952(昭和27)年2月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 232,193 字 · 463 页

青空文庫

「市があるのか。じゃあ、そこへ行って泊ろうか」

「あんな遠くへ参るほどなら、まだまだ、水守の良正様のおやしきへ行った方が、よっぽど近うございますよ」

「そうかなあ。それならやはり、良正叔父の邸へ行こうよ。なあに、夜半になってもかまうものか。……だが、腹がへるぞ、腹が。……梨丸、何か食い物は持ったか」

「持ちませぬ。それには、抜かりました」

「灯の洩る家をみたら訪うてみい。何とかなろうが」

「なりましょうとも」

主従は表面、気がるだった。どっちも若い賜ものである。不自然でなく、死も、どんな危難も、明日の事を今夜はまだ心のうちで幾ぶんでも遊戯していられるのだった。

「あ。……家が見えます。寄ってみましょうか」

「百姓家か」

「――でもないようです。土塀もあり、門も見えます。ははあ、思い出しました。ここは、野霜の部落です。まだ、あちこちに、小さな家もたくさんある」

「野霜か。……とすると、ここには、むかし、武具を作るなんとかいう古い家があったはずだぞ。ここの部落は、弓師、鍛冶、染革師、よろい師、鞍師。みんな武具馬具ばかり作っている者たちの部落だ」

「ともあれ、そこの土塀門を、訪うてみましょう。