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たいらのまさかど

平の将門

吉川 英治

「小説公園」六興出版社、1950(昭和25)年新春号~1952(昭和27)年2月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 232,193 字 · 463 页

青空文庫

「おさらば」

と、馬が歩き出してから、将門は振り顧った。――と。まだ立っている家族たちの視線が、みな、べつな方へそれていた。将門も、馬上から見まわした。彼方の青芒の上に五、六名の上半身が見えた。中のひとりは、騎馬である。

相互から近づくほどに、当然、その者たちとすれ交った。騎馬の若い武士は、将門の顔を、無遠慮に、白眼で見た。狩衣といい、鞍といい、太刀といい、この地方では、甚だしく目立つ程な装いである。従者たちでも、将門よりは立派である。梨丸は、そッぽを向いて通りぬけた。

やり過ごしてから、将門が訊いた。

「梨丸。いまのを、知ってるか――。誰だい、あれは?」

「あれが、源扶ですよ。大串の源護の嫡男とかいう」

「常陸源氏か。……成程、派手やかなものだな」

「息子たちはもう、御曹子とか、若殿とか呼ばせて、畑にも、森にも、出ませんからね。……けれど、梨丸の御主人の方が、はるかに常陸源氏などより、家がらは上です。桓武天皇から六世の御孫でしょう。里の者でも、あの人たちを、御子とは誰も呼びはしません」

梨丸は、ひとりでしゃべっていた。将門がうしろを振向いているのを知らないのである。