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たいらのまさかど

平の将門

吉川 英治

「小説公園」六興出版社、1950(昭和25)年新春号~1952(昭和27)年2月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 232,193 字 · 463 页

青空文庫

弟共に、彼がまだ、素姓を名乗っていないのは、倖せだった。彼の前身は、知らすべきでない。まして、仇敵の叔父共に知られたら、ゆゆしい事になろう。自分を葬る悪宣伝には、絶好な事実だ。将門は、とつおいつ、酔えもしない思いになった。

「……おいっ。どうした。酔わんじゃないか、さっぱり」

不死人は、ひとり杯をかさねて、

「女気がない館は、なにやら淋しい。なぜ、北の方をもらわないのだ」

と、眼をすえて、酔わない相手の顔を見つめた。

「いや、そのうちに、娶うよ」

将門は、ちょっぴり笑った。桔梗を、胸に想い出していた。

「娶てよ、早く。青春は短い。未来の大望にでもかかると、馬上、花をかえりみる間もないぞ。……たれか、あてはあるのか。恋人は」

「ない事もない」

「それやあいい。安心した。――安心したところで、今夜は寝よう。愉快さに、おれは、思いやりを忘れていた。和主は疲れていたろうに。勘弁しろ、勘弁しろ」

始末のいい客ではあった。けれど、どこかに、餓狼の風貌がある。薄く巻き上がっている腹の中へ、いつ鶏や兎を貪り入れようとするか知れたものではない。

将門は、翌日、弟たちへ、こう告げた。