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たいらのまさかど

平の将門

吉川 英治

「小説公園」六興出版社、1950(昭和25)年新春号~1952(昭和27)年2月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 232,193 字 · 463 页

青空文庫

――相手もあろうによ、女奴と」

と、一大事のように、吹聴された事件があった。どうしてか、後見の叔父たちは、小次郎には、何もいわなかったが、女奴の蝦夷萩は、きびしい仕置にあい、大勢のまえで、鞭で三十も四十も打ちすえられた。

それきり、女奴の蝦夷萩は、小次郎のまえに、一度も、姿を見せなくなった。小次郎もまた、以後はよけいに、家に在る大叔父や小い叔父に対して、気うとい風を示して近づかなかったし、大勢の家人や奴婢たちにも、なんとなく、顔を見られるような卑屈を抱いているのだろう。この頃は、ほとんど、屋敷の曲輪うちには、いなかった。ひまさえあれば、その住居から一里半も離れている――この“大結ノ牧”へ来て、馬と遊んでいるか、さもなければ、丘の一つの上に坐りこんで、ぼやっと、行く雲を、見ているのだった。

ここの牧は、坂東平野のうちでも、最も大きな、広い牧場だと、いってよい。

わが家には、こんな牧が、所領の内に、四ヵ所もある。

馬は、土地につぐ財産だ。都へ曳いて行けば、争って人は求めたがるし、地方でも、良馬は、いつでも砂金とひき換えができる。

その馬が、わが家には、こんなにもいるのだ。