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たいらのまさかど

平の将門

吉川 英治

「小説公園」六興出版社、1950(昭和25)年新春号~1952(昭和27)年2月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 232,193 字 · 463 页

青空文庫

いやも応もない。小次郎は、それを持って、退がりかけた。

「待て待て」と、国香がよびとめた。「――その書状を、途中で、失くすまいぞよ。時の右大臣、藤原忠平公へ、特に、お召使いおき下されと、わしからのお願いの状じゃぞ。よいか、幾年でも、辛抱して、汝れの亡父良持へ、わしらが顔向けのなるように、一かどの男になって帰れよ」

この頃は、この三叔父の腹のなかは、小次郎にでも、すこし読めている。小次郎は、憎まれ口でも叩きたかったが、京都へ放たれることは、意外な歓びだったので、それをいう余裕もない。

一人の野の自然児は、こうして、家郷千里の想いもする京都への初旅を、いそいそ西へ向って立った。延喜十八年。小次郎が十六歳の春である。

叔父どもは、あれほどある一頭の馬もくれなかった。けれど彼は、なんの不平も思わず歩いた。武蔵野の端から端へ出るまでを、三日も四日もかかって歩いた。人の通った跡さえ辿れば、夜々の泊りの草屋にも困らなかった。

近々と、富士を仰いだ日、かれは感激に燃えた。都へ出たら、勉強せよ、えらくなれよと、富士の噴煙に、いわれる気がした。

富士は、近年、また鳴動を起し、さかんに、噴煙をあげていた。