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たいらのまさかど

平の将門

吉川 英治

「小説公園」六興出版社、1950(昭和25)年新春号~1952(昭和27)年2月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 232,193 字 · 463 页

青空文庫

「何たッて、黒谷の欲ばり尼が相手だから、安いものしろじゃ、換えッこねえ。玄米一提げに、おれの胴着一枚よこせと、吹ッかけやがったが、値打は、たっぷりと見て、買うてやった。……どうだ、この童は」

むくむくと、みな起き出して、小次郎の顔を見、装いを見、全姿を、ジロジロ眼で撫でまわして、

「安い。これやあ、安いものだぞ」と、ひとりがいえば、他の者も、安い安いといい囃して、口々に罵った。

「なんだ、それじゃあ、たった今、黒谷の尼と、物蔭で耳こすりしていたのは、その取引だったのか」

「童の着けている狩衣と太刀だけでも、物代以上の値はふめる」

「ふてえ奴。ひとり儲けは、よくねえぞ。おれたち八坂組の掟をやぶるものだ」

「酒を買えやい」

「そうだ。やい、不死人。酒を買うて、みなに振舞え。さもなくば、八坂組の仲間掟は要らぬことになる」

仲間といい、組という。一体、これはどういう類の徒党なのであろうか。もとより小次郎に、理解の力はあり得ない。彼は夢みるような顔して、ここの不思議な焔の色と、不思議な男共の会話のなかに、ぽかんと、ただ身を置いているだけだった。多少、途方に暮れた容子は見せたが、一身の不安などとは少しも感じていないらしかった。