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たいらのまさかど

平の将門

吉川 英治

「小説公園」六興出版社、1950(昭和25)年新春号~1952(昭和27)年2月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 232,193 字 · 463 页

青空文庫

――敵は豊田を占領して、勝ちほこり、草の根を分けても、こんどは、将門の首を持って帰ると豪語しておるのに」と、将門の油断をいさめた。

将門も、それを、覚らないではない。けれど、乳のみ子を抱いた桔梗が足手まといなのである。それと、自分の病も懶く、なお、妻子との別れ難い気もちも手伝う。

が、危険は、そのほかにも、いろいろ、身近に、感じられてきた。

「しかたがない。しばしの間、さびしい思いを忍んでくれ。きっと、冬の初霜が降りぬまに、以前にまさる味方を募って、羽鳥、水守の敵に、逆襲せをくわせ、そして、そなたを迎えに来るから……」

桔梗は、良人のこの言葉に、涙ながら、うなずいた。いや、乳の香ふかく、ふところに眠っていた幼子へ、母の頬をすりよせたまま、涙の面を上げなかった彼女のほんとの意志は、

「嫌です。……死んでも、離れるのは……」

と、つよく面を振っていたのかも知れないが、将門の眼も、あたりに、深刻な眼をそむけていた郎党たちも、彼女が、豪族の妻らしい覚悟のもとに、けなげにも、頷いたものと、皆、見てしまった。

三艘の漁船が用意された。

漁船の上は、すっかり、苫を敷きならべ、中に、食糧や、夜具や、そして豊田から運び出した重宝の一部だの、すべてを積み隠した。