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たいらのまさかど

平の将門

吉川 英治

「小説公園」六興出版社、1950(昭和25)年新春号~1952(昭和27)年2月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 232,193 字 · 463 页

青空文庫

「すわ、何事かある?」

と、遠隔の事情にうとい大臣、参議たちが、彼の上告文なるものを、重視したのもむりではない。

上告文には、坂東一帯の騒擾は、すべてこれ、彼の野望と、中央無視の反意によるものであるとなし――為ニ、荘園ハ枯渇シ、農民ハ焦土ニ泣涕流亡シ、ソノ暴状ハ鬼畜モヨク為ス所ニアラズ――と、誇張した文辞で、将門の反官的行為を、ある事ない事、針小棒大に書き出してある。

「すててはおけない」

太政官は、これを取り上げた。

しかし、先年、将門上京のとき、貞盛との訴訟の対決では、将門の申したてを正しいとして、「彼に罪なし」という判決を下してあるばかりでなく、「将門が父以来の遺産田領はこれを直ちに、将門の手に帰すべし」という宣告を貞盛へ申し渡してある。要するに、そのときの官の裁判は、将門を正当とし、貞盛の訴えを、不当としたのだ。

――それを今また、敗訴の貞盛の上告文を取り上げて、軽々しく、将門を朝廷の罪人視するのは、どういうものであろう。すこしヘンなものではあるまいか。――というような正論も、公卿の一部にいわれていた。

「一応、貞盛を召して、つぶさに、貞盛の口から、坂東の実情を、訊き取ってみるべきであろう」