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たいらのまさかど

平の将門

吉川 英治

「小説公園」六興出版社、1950(昭和25)年新春号~1952(昭和27)年2月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 232,193 字 · 463 页

青空文庫

「獄舎だ」ということは、彼にも、ひと目でわかった。彼のほかにも、牢のすみには、臭い動物みたいに、気力なく、ごろごろしている囚人が、幾人かあった。

「童。おめえも、火放けしたか、物盗りをやったのか」

と、それらの者から訊かれたりした。

小次郎は、時々、ぽろぽろと、涙をこぼした。なにか、無念なのである。童心の潔癖が、心外さに、顫くのであった。

「おいらは、桓武天皇から、六代目の御子だ。坂東武士の平良持という豪族の子だ」

みずからの純潔を奮いたたせるために、彼の胸は、ふだんには意識もしてない血液のことが、沸るばかり、呟かれてくる。

「役人の前へ出たら、そういって、威張ってやらなければならない」

唇をかんで、獄舎に、待ちうけていた。

すると昨夜、自分に“気つけ水”を呑ませてくれた最下級の捕吏が、覗き窓から、眼を見せて、

「おう、元気だな、童。おまえは、直きに出されるよ」と、教えてくれた。

間もなく、衣冠の囚獄吏が、令史、府生、獄丁などの下役をしたがえて、外にたたずみ、

「出してやれ」

と、顎で命じた。

そして、小次郎を、聴訴門の庭にすえ、どういうわけで、八坂の群盗共の中にいたかを取調べ、理由を聞きとると、むずかしい追及はせず、彼の所持品を、眼のまえに、返してくれた。