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たいらのまさかど

平の将門

吉川 英治

「小説公園」六興出版社、1950(昭和25)年新春号~1952(昭和27)年2月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 232,193 字 · 463 页

青空文庫

「殿。将平様の兵が、生捕った敵を、曳きつれて来ました。すぐ首を打って、領民の見える所に梟けましょうか」

興世王が勢い込んで、彼の前に告げた。

「待て待て。――そう、やたらに、首ばかり斬りたがるな。どんな捕虜か、おれが見る」

将門は、幕の内へ戻った。

二人の縄付の敵が、悄然と、地上にうなだれていた。

将門は、弟の将頼や将平や、また不死人、玄明などの幕僚をふり顧って、

「この敵は、誰だ。――敵の何者だ」

と、たずねた。

「ひとりは、都の使者、藤原定遠です。そして、もう一名は、常陸介維茂にございまする」

と、誰かが答えた。

すると、将門は、急にいやな顔をして、まるで唾を吐くようにいった。

「なんだ! 為憲でもなければ、貞盛でもないのか。おれが、斬らんと欲しているのは、第一に右馬允貞盛、次に、為憲なのだ。こんな者に、用はない。縄を解いて、追ッ払え」

「えっ。免すのですか」

「貞盛こそは、八ツ裂きにしてもあき足らぬが、都の巡察使や、維茂ごとき老いぼれを斬ったところで、何になろう」

将門は、いよいよ憂鬱な顔をした。そして、

「豊田へ帰ろう」

と、俄に、引揚げの命を出した。